DV離婚の進め方|保護命令・シェルターから弁護士選びまで完全ガイド

夜中、寝室のドアが勢いよく開く音で目が覚める。また何かを怒鳴っている。子どもが布団の中で震えている。「明日こそ家を出よう」と思いながら、朝になると「やっぱり私が我慢すれば」と気持ちが揺れる——。

もしあなたが今、そんな日々を過ごしているなら、この記事はあなたのために書きました。

この記事でわかること: DV(配偶者からの暴力)がある状況で、安全を確保しながら離婚を進めるための具体的な手順を解説しています。保護命令の種類と申立て方法、シェルターの利用方法、DV離婚に強い弁護士の選び方、子どもを連れて避難する際の注意点まで——暴力のない新しい生活を始めるための完全ガイドです。


DV離婚の特殊性——通常の離婚とはまったく違います

「離婚したいなら話し合えばいい」——周囲にそう言われたことはありませんか? しかし、DVがある場合、その「当たり前」が命に関わる危険をはらみます。DV(ドメスティック・バイオレンス)がある離婚は、通常の離婚とは根本的に異なります。最も大きな違いは、「安全の確保」が何よりも優先されるという点です。

通常の離婚であれば、夫婦で話し合い、条件を決め、離婚届を出す——という流れで進められます。しかし、DVがある場合は違います。

  • 話し合い自体が危険:離婚を切り出すことで暴力がエスカレートするリスクがある
  • 加害者との直接交渉は避けるべき:支配と暴力の構造の中で、対等な話し合いは成立しない
  • 証拠収集が難しい:加害者と同居しながら安全に証拠を集める必要がある
  • 住所の秘匿が必要になる:別居後に加害者に居場所を知られることが新たな危険を生む

だからこそ、DV離婚は「まず安全を確保し、次に法的手続きを進める」という順序で計画的に進める必要があります。

一つだけ、先にお伝えさせてください。 あなたが暴力を受けているのは、あなたのせいではありません。「自分が怒らせた」「もっとうまくやれば」——そう思っているかもしれません。でも、暴力を振るうことを選んでいるのは相手です。あなたは悪くありません。


DV離婚の5ステップ——安全を最優先に、一つずつ進めましょう

通常の離婚との違いがわかったところで、具体的な手順に進みます。「全部いっぺんにやらなきゃ」と焦る必要はありません。DV離婚は以下の5つのステップで進めます。一度にすべてを行う必要はありません。今できることから、一つずつ進めていきましょう。

ステップ1:安全な相談先を確保する

まず最初にすべきことは、一人で抱え込まないことです。 DVの被害を打ち明けられる、安全な相談先を確保しましょう。

主な相談先は以下のとおりです。

  • DV相談ナビ(☎ #8008):最寄りの相談機関を自動案内してくれます。覚えやすい番号で、携帯からもかけられます
  • DV相談+(☎ 0120-279-889):24時間対応の電話相談。チャットやメールでの相談も可能です。通話無料
  • 配偶者暴力相談支援センター:各都道府県に設置されている公的機関。保護命令の申立てに必要な「相談実績」にもなります
  • 警察(☎ 110 または最寄りの警察署):身の危険を感じたらためらわず通報してください。相談だけでも記録が残り、後の手続きに役立ちます

相談することに罪悪感を覚える必要はありません。 DVは犯罪です。助けを求めることは、あなたと子どもの命を守るための正しい行動です。

安全のヒント: 相談の通話履歴は必ず削除してください。スマホの場合、通話履歴だけでなくブラウザの検索履歴も消しておくことをおすすめします。

ステップ2:証拠を収集する

安全な相談先を確保できたら、離婚に向けた証拠の収集を始めます。DVの証拠は、後述する保護命令の申立てや、離婚調停・裁判において非常に重要です。

証拠収集は安全を最優先にして行ってください。無理に証拠を集めようとして危険が増すのは本末転倒です。可能な範囲で、少しずつ集めていきましょう。

具体的にどのような証拠が有効かは、次の章で詳しく解説します。

ステップ3:別居・避難する

DV離婚では、離婚の話し合いの前に別居するのが原則です。加害者と同居したまま離婚手続きを進めることは、暴力がエスカレートするリスクが高く、極めて危険です。

別居の方法は状況によって異なります。

  • 親族や友人の家に避難する:ただし、加害者が行き先を知っている場合は危険です
  • シェルター(一時保護施設)に入る:配偶者暴力相談支援センターや警察に相談すると、シェルターへの入所を手配してもらえます。住所は非公開で、加害者に知られることはありません
  • 民間シェルターを利用する:NPOなどが運営するシェルター。公的シェルターが満室の場合の選択肢になります

持ち出すべきもの(可能な範囲で):

  • 自分と子どもの身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど)
  • 健康保険証、年金手帳
  • 預金通帳、キャッシュカード、印鑑
  • DVの証拠(診断書のコピー、日記、録音データなど)
  • 子どもの母子手帳、学校関連の書類
  • 当面の着替え、常備薬

すべてを持ち出せなくても構いません。命より大事なものはありません。 身一つで逃げても、後から弁護士を通じて荷物の引き渡しを求めることができます。

ステップ4:保護命令を申し立てる

別居後、加害者からの追跡や接触を法的に防ぐために、保護命令の申立てを検討します。保護命令の詳細は後述しますが、裁判所が加害者に対して「被害者に近づくな」と命じる制度です。

保護命令の申立ては、弁護士に依頼するのが確実です。自分で申し立てることも可能ですが、手続きの確実性と精神的な負担を考えると、専門家のサポートを受けることを強くおすすめします。

ステップ5:離婚手続きを進める

安全が確保できたら、いよいよ離婚手続きに入ります。DV離婚では、以下のいずれかの方法で進めることになります。

  • 調停離婚:家庭裁判所で調停委員を介して話し合う方法。加害者と直接顔を合わせなくて済むよう、待合室の分離出入り時間のずらしを裁判所に申し出ることができます
  • 裁判離婚:調停が不成立の場合に、裁判で離婚を求める方法。DVは民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するため、裁判で離婚が認められる可能性は高いです

いずれの場合も、弁護士に代理人として入ってもらうことで、加害者とのやり取りを完全に弁護士に任せることができます。


DVの証拠として有効なもの

ステップ2の証拠収集は、保護命令の申立てや離婚裁判の結果を大きく左右します。「何を集めればいいかわからない」という方のために、有効な証拠を具体的にリストアップします。以下のような証拠をできる範囲で集めておきましょう。

医師の診断書

暴力によるケガで病院を受診した場合、必ず診断書を取得してください。打撲、骨折、PTSD、うつ病など、身体的・精神的な被害の両方が証拠になります。

  • 受診の際、医師に「配偶者からの暴力が原因です」と伝えてください
  • カルテに暴力の原因が記載されることで、証拠としての価値が高まります
  • 過去の受診記録がある場合、カルテの開示請求も可能です

ケガの写真

暴力を受けた直後のケガの写真を撮影してください。

  • 日付が入るように撮影する:スマホのカメラなら自動的に撮影日時が記録されます
  • アザや腫れ、壊されたものなども撮影しておく
  • 自分のスマホに残すのが危険な場合、信頼できる人にデータを送っておくか、クラウドストレージに保存する

録音・録画データ

暴言、怒鳴り声、物を投げる音、暴力の現場を録音・録画できれば非常に有力な証拠になります。

  • スマホの録音アプリやICレコーダーを活用する
  • 自宅内での夫婦間の録音は違法ではありません

相談記録

配偶者暴力相談支援センター、警察、DV相談ダイヤルなどへの相談記録は、DVの事実を裏付ける重要な証拠です。相談するたびに記録が残るため、できるだけ早い段階から相談しておくことが大切です。

警察への被害届・相談記録

警察に被害届を出す、または相談する(被害届を出さなくても相談だけでも可能)ことで、公的な記録が残ります。保護命令の申立てにも必要になります。

日記・メモ

暴力を受けた日時、場所、内容、自分の身体的・精神的な状態を記録した日記やメモも証拠になります。手書きのノートでもスマホのメモアプリでも構いません。

証拠集めの鉄則: 完璧な証拠は必要ありません。一つ一つは小さくても、複数の証拠を組み合わせることで、DVの実態を十分に証明できます。安全を最優先に、できるものから集めてください。


保護命令の種類と申立て方法

保護命令は、DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)に基づく制度で、裁判所が加害者に対して被害者への接近等を禁じる命令です。

保護命令の種類

種類 内容 期間
接近禁止命令 被害者の身辺へのつきまとい・被害者の住居や勤務先付近のはいかいを禁止 6か月
退去命令 加害者に被害者と共に住む住居からの退去と住居付近のはいかいの禁止を命じる 2か月
子への接近禁止命令 被害者と同居する子どもへの接近を禁止 6か月
親族等への接近禁止命令 被害者の親族等への接近を禁止 6か月
電話等禁止命令 面会の要求、深夜の電話、連続するメール・SNS送信等を禁止 6か月

申立ての流れ

  • 配偶者暴力相談支援センターまたは警察に相談する
  • – 保護命令の申立てには、事前にこれらの機関に相談した実績が必要です

    – 相談記録が保護命令の申立書の添付書類になります

  • 地方裁判所に保護命令の申立書を提出する
  • – 申立書には、暴力の内容、生命・身体への危険、相談機関への相談事実などを記載します

    – 弁護士に依頼すれば、申立書の作成から提出まで代理してもらえます

  • 裁判所での審尋(しんじん)
  • – 裁判官が被害者と加害者の双方から事情を聞きます(別々に行われます)

    – 被害者は弁護士と一緒に出席できます

  • 保護命令の発令
  • – 申立てから発令までは、通常1〜2週間程度です

    – 緊急性が高い場合は、さらに迅速に発令されることもあります

    保護命令に違反した場合、加害者には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。法的な強制力のある、強力な保護手段です。


    DV被害者が利用できる支援制度

    DV被害者には、さまざまな公的支援制度が用意されています。「頼れる場所がない」「お金がない」と感じていても、使える制度があります。

    支援制度 連絡先・窓口 内容
    配偶者暴力相談支援センター 各都道府県に設置(一覧は内閣府HPで確認可) DV相談、カウンセリング、シェルター手配、保護命令支援、自立支援
    DV相談ナビ #8008 最寄りの相談機関を自動で案内。携帯からもかけられる
    DV相談+(プラス) 0120-279-889(24時間対応・通話無料) 電話・メール・チャットで相談可能。外国語対応あり
    シェルター(一時保護施設) 配偶者暴力相談支援センター経由で入所 住所非公開の安全な避難場所。食事・日用品の提供あり。子どもの同伴可
    住民票の閲覧制限 市区町村の窓口 加害者が住民票や戸籍の附票を閲覧できないようにする制度。別居後すぐに申請を
    生活保護 福祉事務所 DV避難後に収入がない場合、生活保護を申請できる。住所不定でも申請可能
    母子生活支援施設 福祉事務所経由で入所申込み 母子で入所でき、生活支援・就労支援を受けられる。シェルター退所後の中長期的な居場所
    法テラス 0570-078374 弁護士への無料法律相談(収入要件あり)。弁護士費用の立替制度もある

    経済的な不安をお持ちの方へ:「お金がないから逃げられない」と思っている方は多いですが、生活保護や各種支援制度を利用すれば、手持ちのお金がなくても避難は可能です。また、別居後は加害者に対して婚姻費用(生活費)の請求ができます。弁護士や相談機関に、経済面の不安もあわせて相談してください。


    DV離婚に強い弁護士の選び方

    DV離婚では、弁護士の選び方が結果を大きく左右します。離婚に詳しい弁護士であっても、DV案件の経験が少ない場合があるため、以下のポイントを確認しましょう。

    1. DV案件の取扱い経験が豊富であること

    DV離婚は通常の離婚と進め方が大きく異なります。保護命令の申立て、住所秘匿の手続き、加害者との交渉方法など、DV特有の知識と経験が必要です。

    相談時に「DV離婚の案件はこれまで何件くらい担当されていますか?」と率直に聞いて構いません。

    2. 保護命令の申立て実績があること

    保護命令の申立ては、弁護士であれば誰でもできますが、申立書の書き方や証拠の整理の仕方によって、発令されるかどうかが変わる場合があります。実績のある弁護士を選びましょう。

    3. 被害者の心理を理解していること

    DV被害者は、長期にわたる暴力によって自己肯定感が著しく低下していることが多く、「自分が悪いのでは」「離婚していいのだろうか」と迷う気持ちを抱えています。

    被害者の気持ちに寄り添い、責めたり急かしたりせず、安心して相談できる弁護士を選んでください。初回相談の際の対応で判断できます。

    4. シェルターや支援機関との連携があること

    DV離婚では、弁護士だけでなく、シェルター、配偶者暴力相談支援センター、福祉事務所など複数の機関との連携が不可欠です。これらの機関とのつながりがある弁護士は、手続きをスムーズに進められます。

    5. 法テラスの利用が可能であること

    DV被害者の多くは、経済的DVによって手持ちの資金が限られています。法テラスの民事法律扶助制度を利用すれば、弁護士費用の立替を受けられます(収入要件あり)。法テラスと契約している弁護士であれば、この制度を利用できます。

    弁護士探しに迷ったら: DV離婚に強い弁護士を自分で探すのは大変です。弁護士紹介サービスを利用すれば、DV案件の経験が豊富な弁護士を無料で紹介してもらえます。「どの弁護士に相談すればいいかわからない」という方は、まず紹介サービスに問い合わせてみてください。


    子どもを連れて家を出る際の注意点

    DV被害者の多くが不安に感じるのが、「子どもを連れて家を出たら、連れ去りになるのではないか」ということです。結論から言えば、DV被害から子どもを守るために家を出ることは、正当な行為です。

    「連れ去り」にならないための手順

    子どもを連れて家を出る際、以下のポイントを押さえておけば、後から「連れ去り」と主張されるリスクを軽減できます。

    • 事前に配偶者暴力相談支援センターや警察に相談しておく:DV被害の相談実績があることで、「暴力から逃れるための避難」であることを客観的に証明できます
    • 弁護士に事前に相談する:避難のタイミングや方法について、法的なアドバイスを受けておく
    • シェルターを利用する:シェルターへの入所は、公的機関が「保護の必要性がある」と判断した証拠になります

    監護権の確保

    別居後は、速やかに監護者の指定の申立てを家庭裁判所に行うことを検討してください。これにより、法的に子どもの監護権を確保でき、相手方からの引渡し請求を防ぐことができます。弁護士に依頼すれば、迅速に手続きを進められます。

    子どもの転校手続き

    DVにより住所を移す場合、子どもの転校が必要になることがあります。

    • 住民票の異動前でも転校は可能:教育委員会に事情を説明すれば、柔軟に対応してもらえます
    • 住民票の閲覧制限を申請しておけば、転校先の学校を通じて加害者に居場所が知られることを防げます
    • シェルターや母子生活支援施設に入所している場合は、施設のスタッフが転校手続きをサポートしてくれます

    面会交流の制限

    離婚後、加害者が子どもとの面会交流を求めてくる場合があります。しかし、DVがある場合は面会交流が制限または拒否されることがあります。

    • 子どもへの直接的な暴力がある場合は、面会交流の拒否が認められやすい
    • 子どもの前でDVが行われていた場合も、子どもへの心理的影響を理由に制限が可能
    • 面会交流が認められる場合でも、第三者機関(面会交流支援団体)を介した面会を条件にすることができます

    まとめ:あなたは悪くない、助けを求めることは正しい

    ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

    DV離婚は、通常の離婚よりも多くのステップがあり、不安に感じることも多いと思います。「本当に逃げられるのだろうか」「子どもを連れて出ていいのだろうか」「経済的にやっていけるのだろうか」——そのすべての不安は、当然の感情です。

    しかし、覚えておいてください。

    • 暴力を受けているのは、あなたのせいではありません。どんな理由があっても、暴力は許されない行為です
    • 助けを求めることは、弱さではありません。あなたと子どもの命と安全を守るための、もっとも勇気ある行動です
    • 使える支援制度はたくさんあります。お金がなくても、頼れる人がいなくても、公的な支援を受けて避難し、新しい生活を始めることは可能です
    • 一人で戦う必要はありません。弁護士、相談支援センター、シェルターのスタッフ——あなたの味方になってくれる人たちがいます

    この記事を読んでいるということは、あなたはすでに「現状を変えたい」という一歩を踏み出しています。

    まずは、今日できることを一つだけ。

    DV相談ナビ(#8008)に電話する。 それだけで十分です。

    あなたには、暴力のない場所で、安心して暮らす権利があります。あなたと子どもの未来のために、どうかその一歩を踏み出してください。


    今すぐ相談できる窓口:

    • DV相談ナビ ☎ #8008(最寄りの相談機関を案内)
    • DV相談+ ☎ 0120-279-889(24時間対応・通話無料)
    • 警察 ☎ 110(身の危険を感じたらすぐに通報)

    免責事項: この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的アドバイスを構成するものではありません。個別の状況については、必ず弁護士などの専門家にご相談ください。記載の制度・相談窓口の情報は2026年3月時点のものです。

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